でぶでぶの戦士だっ

投稿者:User icon mini believegut 投稿日:2016/07/20 16:00


「ふむ、どこかへ通じているはずだ」アンヘグ王は目をすがめて、ガリオンがやきもきしながら待っている場所を見あげ、言った。「かれはそれをたどっていきさえすればいいんだ」
「そして一直線にマーゴ人アシャラクの手中に落ちるの?」ポルおばさんは訊いた。「かれは今いる場所をはなれないほうがいいわ」
「アシャラクは命からがら逃げだして乳鐵蛋白いるよ」アンヘグは言った。「この宮殿にはおるまい」
「わたしの記憶では、王国内にすらいないはずなのよ」彼女は痛烈に言った。
「そのくらいにしておけ、ポル」ミスター?ウルフはそう言って、上へ、呼びかけた。「ガリオン、その通路はどっちへつづいている?」
「王座のある広間の裏につづいているらしいんだ」ガリオンは答えた。「曲がっているかどうかはわからない。真っ暗なんだよ、ここ」
 ウルフは言った。「松明を二本渡すから、一本を今いる場所に置き、もう一本を持って通路を歩いておいき。最初の一本が見えるかぎり、まっすぐ進んでいることになる」
「じつに名案だ」シルクが言った。「七千歳まで生きて、わたしも難問をやすやすと解決できるようになりたいもんだ」
 ウルフはそれを聞き流した。
「おれはやっぱり梯子をかけて、壁に穴免疫系統をあけるのが一番安全な方法だと思うね」バラクが言った。
 アンヘグ王は気を悪くしたようだった。「まずベルガラスの提案を試せないものかね?」
 バラクは肩をすくめた。「王はあんただ」
「どうも」アンヘグは無愛想に言った。
 ひとりの戦士が長い棒を持ってきて、二本の松明がガリオンに届けられた。
「通路がまっすぐ伸びているとすれば、貴賓室のどこかに出るはずだ」アンヘグは言った。
「おもしろい」ローダー王が片一方の眉をつりあげた。「通路が貴賓室へ通じているのか、それとも貴賓室から[#「から」に傍点]出ているのかわかれば大変ためになる」
「通路がとっくの昔に忘れられた脱出路か何かだという可能性だって大いにある」アンヘグは傷つけられた口調で言った。「なんといっ更年期中醫てもわれわれの歴史はそれほど平和ではなかったのだ。よりによって最低の予想をする必要はないだろうが」
「むろんないとも」ローダー王はやんわり言った。
 ガリオンは壁の細長い穴の傍らに松明の一本をおき、しきりにふり返ってそれがまだよく見えるかどうかたしかめながら、埃だらけの通路をたどった。とうとう細いドアの前にたどりついた。ドアをあけると中にからっぽの戸棚があった。その戸棚をでると贅沢な寝室があり、外に広くて煌々と明かりのついた廊下が伸びていた。
 数人の戦士が廊下をやってきて、ガリオンはその中に猟師のトーヴィクの姿を認めた。「ここだよ」安堵感が押し寄せてきて、ガリオンは廊下に出ていった。
「忙しかったようだな」トーヴィクはにやりとして言った。
「考えてやったことじゃないんだ」ガリオンは言った。
「アンヘグ王のもとへきみを連れて帰らせてくれ」トーヴィクは言った。「きみのおばさんのあのご婦人が心配していたようだぞ」
「ぼくのことを怒っているんだよ、たぶん」肩幅の広い男と並んで歩きながらガリオンは言った。
「だろうね」トーヴィク。「女ってのはほとんど四六時中なんのかんのとわれわれに腹を立てているんだ。大人になるにしたがってきみが慣れなけりゃならんことのひとつがそれなんだ」
 ポルおばさんは謁見の間の戸口で待っていた。叱責はされなかった――とにかく今のところはまだ。ほんの束の間、彼女はガリオンを狂おしく抱きしめると、いかめしい顔でかれを見つめた。「みんな待っていたのよ」穏やかともいえる口調でそう言ってから、他の人々の待ちうけるところへガリオンを連れていった。
「わたしの祖母の部屋にだと?」アンヘグがトーヴィクに言っていた。「なんとも驚いたな。わたしがおぼえている祖母は、杖をついた気まぐれなばあさんだったがね」
「だれにだって若いときはあるさ、アンヘグ」ローダー王が茶目っ気のある顔で言った。
「理由はいくらでもありますわよね、アンヘグ」ポレン王妃が言った。「夫はちょっとあなたをからかっているんですわ」
「部下のひとりが通路を調べました、陛下」と、トーヴィクが気をきかせて言った。「大変な埃りの厚さです。おそらく何世紀も使われていないでしょう」
「なんとも驚くべきことだ」アンヘグはくりかえした。
 それをもってその一件は微妙にうちきられたが、ローダー王のいたずらっぽい表情はいかにも何かいいたげだった。
 セリネ伯爵が如才なく咳払いした。「ここにいるガリオン青年が何か聞かせてくれるのではないだろうか」
「でしょうね」ポルおばさんはガリオンのほうを向いた。「たしか自分の部屋にいるようにと言ったはずだけれど」
「アシャラクがぼくの部屋にいたんだよ」ガリオンは言った。「戦士をしたがえていた。ぼくを呼びつけようとしたんだけれど、ぼくが行かないでいたら、一度は自分のものにしたんだからまたそうできると言った。なんのことかよくわからなかったけれど、まずぼくをつかまえなけりゃならないよって言ってやったよ。それから逃げだしたんだ」
〈リヴァの番人〉ブランドが愉快そうに笑って言った。「ケチをつけようにもつけられそうにありませんね、ポルガラ。グロリムの僧が部屋にいるのを見つけたら、わたしだってやっぱり逃げだしますよ」
「まちがいなくアシャラクだったか?」シルクがたずねた。
 ガリオンはうなずいた。「あいつのことはずっと前から知っているんだ。生まれたときから。あいつもぼくを知っていた。ぼくを名前で呼んだからね」
「そのアシャラクとやらとじっくり話をしたいもんだ」アンヘグが言った。「わが王国にひきおこした害について、いくつか訊いてみたいことがある」
「かれを見つけるのはむりだろう、アンヘグ」ミスター?ウルフが言った。「ただのグロリムの僧ではないらしい。一度、ミュロスでやつの精神にふれてみたが、並みの精神ではない」
「捜索をして楽しみたいのさ」アンヘグは冷酷な表情をうかべた。「いくらグロリムでも水の上を歩くことはできないだろう。だから、チェレクの港という港を封鎖し、山や森を戦士たちにしらみつぶしにさせるのだ。いずれにせよ、冬のあいだ戦士は肥るばかりで手に負えんから、いい運動になる」
「肥って手に負えん戦士を真冬の雪の中へ追いやれば、あんたは人気のある王になるわけにはいかんだろうね、アンヘグ」と、ローダーが言った。
「ほうびを出せばいい」シルクが提案した。「そうすれば、仕事をさせて、なおかつ人気も失わずにすみますよ」
「それは名案だ」とアンヘグ。「どんなほうびがいいだろう、ケルダー王子?」
「アシャラクの首と同じ重さの金貨を与えると約束なさい。そうすりゃ、てダイス?カップやビール樽から離れますって」
 アンヘグはひるんだ顔をした。
「やつはグロリムです」シルクは言った。「どうせ見つかりっこないですよ。しかし戦士は王国中を捜しまくるでしょう。あなたの金貨は無事、戦士はちょっとした運動をし、あなたの気前の良さが評判になる。そしてチェレク中の人間が斧を持って捜しまわれば、アシャラクも身を隠すのに忙しくて、災難なんぞひきおこしちゃいられなくなる。自分の首が自分自身より他人にとって価値あるものになったら、ばかなことをする暇なんかありませんよ」
 アンヘグは重々しく言った。「ケルダー王子、きみはくせ者だな」
「そうあろうと努めております、アンヘグ王」シルクは皮肉っぽく頭をさげた。
「わたしのところで仕事をする気はないかね?」とチェレクの王は申し出た。
「アンヘグ!」ローダーが抗議した。
 シルクは嘆息した。「なにしろ血がつながっていますからね、アンヘグ王。血縁という絆によって、わたしはおじに従属しているんです。しかし、あなたの申し出を聞くにやぶさかではありません。わたしの奉仕料をめぐる今後の話し合いに役立つかもしれませんからね」
 ポレン王妃が小さな銀の鈴のような声をたてて笑い、ローダー王は苦虫をかみつぶしたような顔になった。「このとおりだ」とかれは言った。「わたしは裏切者たちに完全に囲まれていたのだ。哀れな肥った年よりはどうすればいい?」
 猛々しい顔つきの戦士が広間にはいってきて、アンヘグにつかつかと歩みよった。「終わりました。やつの首をごらんになりますか?」
「いや」アンヘグは短く言った。

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