声が聞こえて来た
投稿者: xcbhdk
投稿日:2014/03/12 12:07
水谷良太の朝は早い。家業のラーメン店を手伝うようになって3年目になる。彼は県外の専門学校を卒業し、その後に大手のビール会社に勤めたものの会社に馴染めず3年目になって退職届を出した。直ぐに家業のラーメン屋を手伝うようになった。店の名前は『麺Sクラブ 未来軒』と言いラーメンの専門店。地元の新聞やグルメ雑誌にも何度も取り上げられ評判の店だった。そこの独り息子で現在26歳、恋人はいない。過去にも恋人らしき人はいなかった。
店では専ら裏方専門で丼を洗ったり、バイクに乗ってヘルメットを被り出前を届けたり、商品の仕入れだけで、そして唯一、任せられているのは長ネギを刻むことだけ。これはトッピングのメニューにも載っている良太の自慢だった。店長で2代目はラーメンを作りが担当、お袋は餃子作りが担当。その他にもお袋と二人で注文を聞く事や出前の受付、レジでの会計等のホール責任者。2代目も何れスープの作り方、麺の出来具合の見分け方や茹で方、そして餃子の作り方は教えてやると言われているが一行に進まずに、時々、父の遣り方を盗んで自分なりに研究をしていた。
季節は4月、寒さが残る時期だった。客足が少なくなる午後2時過ぎに、何時ものように良太はトッピング用の長ネギを刻んでいると、何処かで見覚えのある女性が入りカウンターの端の席に座った。
良太はカウンター輿から顔を出して
「いらっしゃいませ」
と響きのある声で言うと、相手も驚くように良太の顔を見た。
「アレー、水谷君……」
「若しかしたら上原さん」
二人はお互いの顔を見合わせると名前を呼んだ。
二人は中学の同級生だった。入学から卒業までクラス替えがあっても二人は3年間一緒だった。中1の頃は滅多に話さなかったが、中2になると距離が近くなり少しずつ話すようになった。席も隣同志になったり、掃除当番も一緒だったりした。その頃の良太は明るくはなく悪戯で正美のスカートを覗いたりめくったりした。それがその頃の流行りだった。
そんな彼も中学生の頃は目立たぬ存在。その半面、上原正美は積極的で控え目な女生徒。3年にはクラス委員にも選ばれた。部活は良太が3年間、陸上部に所属し走り幅跳びの選手として活躍した。その当時の市主催の陸上競技大会では優勝は逃したものの準優勝をした。上原正美も図書クラブに所属し3年間地道に本の整理や読書週間では啓蒙活動をした。
その頃、3年間同じクラスを通したのは二人の他に梅川登、細田雪江、内山美夏、渡部慎一の4人で併せて6人だった。高校になると話す機会がなくお互い大学受験で忙しかった。その後、何の音沙汰もなく時間が過ぎた。ところが、彼らは上原正美の連絡で再び親しくなった。何度か店にも来た。最後に2年から3年の時の担任、菊池先生は数回の移動の後に同じ中学の校長として赴任し二人を暖かく見守っていた。菊池校長に知らせたのも上原正美だった。
「上原さん、どうしたんだ」
「良太君こそ、どうしたの」
「見れば分かるようにここで働いているんだ」
「ビール会社じゃなかったの。何年か前に噂で聞いたの」
「それも3年前に辞めたんだ」
「この仕事は何時までなの」
「店の営業時間は午後9時までだけど、朝も仕込みがあって早いんだ」
「ところで向こうで、時々、じろじろとこちらを見ているのは店長さんなの」
「ここの店長で2代目、親父なんだ。その隣にいるのはお袋だよ」
「と言う事は良太君が3代目になるの」
「2代目には3代目と言われているけど、まだ半人前以下なんだ」
「中学の時の授業中に、確か社会科か忘れたけど授業の発表の時に親の家業がどうのこうの……と言ったけどラーメン屋だとは知らなかったわ」
正美は驚いたように言った。
「上原さんも、どうしたんだ」
「中学の頃のように正美と呼んでよ」
「なら正美、どうしたんだ」
「私も理由があって1週間前に仕事を辞めてアパートを引き払って昨日から実家で暮らしているの」
「そうなのか、理由は聞かないけど、ところで何を食べる」
「良太君のお勧めは」
「どれも親父の自信作なんだ。どれも美味いよ。強いて挙げるならチャーシューメンだ」
「私、それに注文するわ」
「了解、ところでトッピングは何にする。それだけはサービスするから」
「私、ネギが好きなの」
正美は献立と書かれたメニューを見て選び、良太は伝票に記入し麺を茹でている2代目の小さなテーブルに置いた。その間、良太も注文の品が来るまで正美と思い出話をした。すると頼んで数分後には厨房から「特注、チャーシューメン上がり」と2代目の大きな声が聞こえて来た。良太は直ぐに受け取りに行き正美の座っているカウンターに置いた。
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店では専ら裏方専門で丼を洗ったり、バイクに乗ってヘルメットを被り出前を届けたり、商品の仕入れだけで、そして唯一、任せられているのは長ネギを刻むことだけ。これはトッピングのメニューにも載っている良太の自慢だった。店長で2代目はラーメンを作りが担当、お袋は餃子作りが担当。その他にもお袋と二人で注文を聞く事や出前の受付、レジでの会計等のホール責任者。2代目も何れスープの作り方、麺の出来具合の見分け方や茹で方、そして餃子の作り方は教えてやると言われているが一行に進まずに、時々、父の遣り方を盗んで自分なりに研究をしていた。
季節は4月、寒さが残る時期だった。客足が少なくなる午後2時過ぎに、何時ものように良太はトッピング用の長ネギを刻んでいると、何処かで見覚えのある女性が入りカウンターの端の席に座った。
良太はカウンター輿から顔を出して
「いらっしゃいませ」
と響きのある声で言うと、相手も驚くように良太の顔を見た。
「アレー、水谷君……」
「若しかしたら上原さん」
二人はお互いの顔を見合わせると名前を呼んだ。
二人は中学の同級生だった。入学から卒業までクラス替えがあっても二人は3年間一緒だった。中1の頃は滅多に話さなかったが、中2になると距離が近くなり少しずつ話すようになった。席も隣同志になったり、掃除当番も一緒だったりした。その頃の良太は明るくはなく悪戯で正美のスカートを覗いたりめくったりした。それがその頃の流行りだった。
そんな彼も中学生の頃は目立たぬ存在。その半面、上原正美は積極的で控え目な女生徒。3年にはクラス委員にも選ばれた。部活は良太が3年間、陸上部に所属し走り幅跳びの選手として活躍した。その当時の市主催の陸上競技大会では優勝は逃したものの準優勝をした。上原正美も図書クラブに所属し3年間地道に本の整理や読書週間では啓蒙活動をした。
その頃、3年間同じクラスを通したのは二人の他に梅川登、細田雪江、内山美夏、渡部慎一の4人で併せて6人だった。高校になると話す機会がなくお互い大学受験で忙しかった。その後、何の音沙汰もなく時間が過ぎた。ところが、彼らは上原正美の連絡で再び親しくなった。何度か店にも来た。最後に2年から3年の時の担任、菊池先生は数回の移動の後に同じ中学の校長として赴任し二人を暖かく見守っていた。菊池校長に知らせたのも上原正美だった。
「上原さん、どうしたんだ」
「良太君こそ、どうしたの」
「見れば分かるようにここで働いているんだ」
「ビール会社じゃなかったの。何年か前に噂で聞いたの」
「それも3年前に辞めたんだ」
「この仕事は何時までなの」
「店の営業時間は午後9時までだけど、朝も仕込みがあって早いんだ」
「ところで向こうで、時々、じろじろとこちらを見ているのは店長さんなの」
「ここの店長で2代目、親父なんだ。その隣にいるのはお袋だよ」
「と言う事は良太君が3代目になるの」
「2代目には3代目と言われているけど、まだ半人前以下なんだ」
「中学の時の授業中に、確か社会科か忘れたけど授業の発表の時に親の家業がどうのこうの……と言ったけどラーメン屋だとは知らなかったわ」
正美は驚いたように言った。
「上原さんも、どうしたんだ」
「中学の頃のように正美と呼んでよ」
「なら正美、どうしたんだ」
「私も理由があって1週間前に仕事を辞めてアパートを引き払って昨日から実家で暮らしているの」
「そうなのか、理由は聞かないけど、ところで何を食べる」
「良太君のお勧めは」
「どれも親父の自信作なんだ。どれも美味いよ。強いて挙げるならチャーシューメンだ」
「私、それに注文するわ」
「了解、ところでトッピングは何にする。それだけはサービスするから」
「私、ネギが好きなの」
正美は献立と書かれたメニューを見て選び、良太は伝票に記入し麺を茹でている2代目の小さなテーブルに置いた。その間、良太も注文の品が来るまで正美と思い出話をした。すると頼んで数分後には厨房から「特注、チャーシューメン上がり」と2代目の大きな声が聞こえて来た。良太は直ぐに受け取りに行き正美の座っているカウンターに置いた。
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