失職してもうすぐ1か月。
俺は何ができるのか。
何をすべきなのか。
何がしたいのか。

あら、しゅぴさん、仕事のことですの？

うん。住んでいる場所が田舎だから、仕事をえり好みはできないはずなんだけど、やっぱり躊躇してしまうんだ。
よくないことだとわかってはいるけど、自分の意気地なしっぷりにはほとほとあきれるよ。
知識ばっかりの頭でっかちでさ、知恵がないのも問題だし。
というか、自分で自分のことを「知識がある」とか言っちゃう奴に限って、大した知識を持っていなかったりするしな。

……それって、予防線ですの？
他人から悪く言われるのが嫌だから、先に自分で自分の悪口を言って、それを防ぐ。
あわよくば、周囲から、「そんなことないよ」って言われたい。
そういう風に、わたくしには見えますわ。

ばれたか。
だからといって、何なんだ？

まあ……！
開き直る気ですわね！

待てアレイラ。このままだと不毛なけんかになる。
ここは、第三者の意見を聞こうじゃないか。

！？
いきなり、何ですの？
流れを無理やり変えてまで呼ぶ第三者……。
まさか、その第三者って……。

そう。"あの子"だ。

機種名：二式隠蔽自律人機 新月、
AI識別名：サクヤ です。
よろしくお願いいたします。

私は長巻 一八(ながまき かずや)と申します。
とある研究所に研究室を置かせていただき、主にサイエンスゴーレムに関する研究を行っています。
サクヤは私の研究成果の一つです。
よろしくお願いいたします。
……つかぬ事をお聞きしますが、なぜ私の顔が出ていないのでしょうか？

ども。
俺はここの責任者で、名前はしゅぴーれらい。
それは、あれだ。
長巻博士が研究しているサイエンスゴーレムは、軍事用のものだね？
軍の上層部から、機密保持のためにこういう指示を受けたんだ。
(実は長巻博士のデザインが決まっていないなんて、口が裂けても言えない)
発言の内容も、機密にかかわることが出た場合は適宜修正するように言われている。
(真っ赤なウソとはこのことだな。)

では、なぜ存在そのものが機密である私がここに呼ばれたのですか？
自己紹介もしてしまいましたよ。

そ、それは……。
そう、俺たちがいるこの空間は、君たちが生活していた世界とは時空がずれているんだ。
だから、ここで起こったことは、君たちが生活していた世界からは知ることができないんだ。

じゃあ、機密保持うんぬんというのは嘘だったんですね？
私は、事実でないことを事実であるかのように発言する者、つまり嘘つきが嫌いなんです。
いや、待てよ、時空がずれてるという話の方が嘘である可能性も考えられますね。
どっちにしろ、あなたが嘘つきだというのは事実となりますがね。
しゃべるカラスという存在には驚きを隠せませんが、しょせんその程度ということですね。

話は一段落したかしら？
わたくしの名前はアレイラといいますの。
見ての通り、種族はアラクネですわ。
よろしくお願いしますわ。

アレイラさん、苗字は何ですか？

え？
さっきも言いました通り、わたくしはアラクネですの。
人間ではありませんから、苗字はありませんの。

人間ではないから苗字がないなんて、変ですね。
やはり、日本の方ではないんですか？
日本語を覚えるのは大変だったでしょう。

名前がカタカナなので勘違いされがちなんですけど、わたくしは生まれも育ちも日本ですわ。
ただ、先祖はギリシャ出身ですわ。アラクネですから当たり前ですけど。

なんだか引っかかるけど、謎は深まるばかりです。

うん、言い忘れてた。
アレイラは君たちとは違う時代の存在なんだ。具体的には800年くらい前。
言っただろう、ここは元の世界から時空がずれているって。
つまり、ここはあらゆる場所、あらゆる時代、あらゆる平行世界から独立した場所なんだ。

それが事実なら、信じがたいことです。
ですが、しゅぴーれらいさんが嘘つきであるほうが事実です。
残念ながら、アレイラさんも、このドッキリの仕掛け人であると考えざるを得ません。

俺をどうこう言うのは構わない。
落ち度は俺にあるから。
だが、アレイラは無関係だ！
アレイラのことを仕掛け人だのどうこう言うのは許さない！
一度カメラを止めてじっくり話そうか。