敬意を表したい

投稿者:Material 321230 1 mini lierni 投稿日:2016/06/20 17:06

昨日の読売新聞に、ケンブリッジ大学教授のフレンダン・シムズ氏のインタヴューが載つてゐた。48歳の俊英で欧州史が専門である。私は存じ上げないが、一面全体を使つて今の欧州を語らせるのであるから、その解説を讀んでみようと思つた。

先日、EU離脱に反対する女性議員が暗殺された。インタヴーはそのタイミングでなされたものではないだらう。その意味でも読売新聞の見識を敬意を表したい。インタヴァーは編集委員の鶴原徹也氏である。

英国のこれまでの欧州観を理解するには二つのことを知る必要がある。一つは、統合によつてドイツを封じ込めと同時に旧ソ連に対抗しようとしたといふこと。二つ目は、大陸欧州は歴史的に脅威であり、連合国として欧州が一つに「統合」することを求めてきたといふこと。しかし、チャーチルの時に、統合を促しつつも加はらなかつた。

その後、英国植民地の独立やフランスの台頭によつて、英国の力は相対的に弱まり、統合ではない「連合」といふ形にして、フランスの力を見えにくくするやうにして英国も参加しようとする。しかし、フランスのドゴールがそれを拒絶し、加盟することになるのはドゴール死後の七三年であつた。

そして更に、冷戦が終はり、ドイツの台頭が新たな封じ込めの必要が生まれた。それが通貨統合の波である。しかし、英国はそれに加はらなかつた。結果的に、現在のEUはドイツが支配的になつてゐる。

EUは、近年新たな脅威に直面してゐる。プーチンの専制的なロシアがあり、ISに連なる過激派が域内に広がり、英国内にもポピュリストが大衆をEU懐疑の方向に扇動してゐる。そして、EUには連邦政府があるやうに見えて、実態は国々の集合体で外交・安保政策に何一つ手を打てない。ドイツは民主諸国に囲まれロシアの危機を感じてゐない。

「ユーロ圏は一つの国庫、一つの軍、一つの議会を持つ、連邦国家にならなければならない。」

「欧州統合の過ちは漸進主義にある。全てが緩慢だ。だが、婚約期間が長すぎれば、結婚ではなく、涙で終わる。スピードが重要だ。」

結論的に、英国が作り上げてきた「連合国家」といふスタイルを、欧州が取るべきだと述べる。

結びつきの強さを順に表せば「連合」「連邦」「統合」「統一」といふことになる。英国以外は、「連合」や「連邦」によつて、英国の支配が強い形での「結びつき」を嫌ふ。しかし、それでは非欧州圏からの「脅威」に対抗できない。歴史的にドイツへの脅威も内に秘めてゐる。このジレンマを抱へつつ、「連合」を模索してゐる。シムズ氏は、それでは遅いといふわけである。

サミット参加国を見ても七か国のうち、四か国は欧州である。その国の行方は世界にかかはる。欧州経済のブロック化で、非欧州圏の排除を、なかんづく日本排除の動きがあれば、それ自体が脅威となるが、それは起きさうもない。

日本は、アメリカとの関係を維持しつつ、もう少し欧州とのつながりを深めていく必要がある。地理的な遠さが心理的な距離を生み出してゐるばかりではなく、関心が薄い。その意味で、かうしたヨーロッパのジレンマ、苦悶を知る機会があるのはありがたい。

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