北海道への卒業旅行

投稿者:User icon mini swase 投稿日:2015/12/17 12:55

北海道への卒業旅行。
日が射す弟子屈の町から、くねくねの山道を登るうち雲行きが怪しくなる。
次第に濃くなって行く霧が、第3展望台ではあたり一面に立ち込め、見下ろした湖面は神秘のベールに包まれて何も見えない。
それが摩周湖と私の出会いだった。

2度目の夏は、親友と二人で出かけ、抜けるような青空に綿雲がぽっかり浮かぶ。
霧もかけらもなく、私は胸ときめかせて階段を駆け上がった。
眼下の湖面は不思議なくらい美しく澄んだ青色。
緑茂る楕円の小島が中央にぽつんと浮かぶ。
新緑の低山が三角の頂を空高く突き出し、なだらかな裾野が横長のカルデラ湖を包む。
複雑な尾根の形を逆さに写しだす水面は、青空のグラデーションと少しづつ左右へ移動していく綿雲まで映している。
神秘的な上下対称の景色。
コバルトブルーの大きな鏡のような湖。
「あの孤島には神が宿っている」
そんな伝説をふと思い出し、私はしばらく息を止めて見とれていた。

3度目は、大きな夢に破れ人生に迷った独り旅の冬。
固い雪が車道に凍てつき、木枯らしが吹きすさぶ。
第3展望台への道は頑丈な鉄柵で遮られ、身長を超える雪が向こう側を埋めつくしていた。
立ち入り禁止のマークを無視して金網を乗りこえると、見わたす限り広がるしーんとした雪の大地。
林沿いの緩やかな上りの雪道を、新雪にひざまで飲みこまれつつ私はがむしゃらに進む。
強風にさらされているのに全身から汗が吹き出し、ラッセル車の様に両手でも深い雪をかき分ける。
小1時間の苦闘で着いた展望台も、ほとんど雪に埋もれていた。
分厚い灰色の雲が垂れ込める空の下で、黒味を帯びた山並みに白い雪がまだらにかかる。
湖面はブルーではなくて冷たい藍色。
予想外の風景に驚いたがすごく厳粛で美しい。
私は息を整えつつ目の前の景色に見とれ、ぽつんとたたずむ雪化粧の小島に特に心ひかれる。
心が不思議と透き通り、自分のちっぽけな悩みや迷いがスーッと溶けていくのを感じた。

霧と神秘の湖。
青と緑の優しい湖。
厳しかったが私の悩みを不思議と癒やしてくれた真冬の湖。
どれもが同じ一つの湖。
あの一人旅で何とか立ち直った私は、「長すぎた春」にならずにすんだ妻との間に、今はかわいい3人の子供がいる。
あの日以来私は、あの小島には本当に神様がいると信じている。
一生忘れられない摩周湖に、心の中で私は今も感謝している

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