本格活動開始
投稿者: diver_ryu 投稿日:2011/04/27 16:08
今さっきニコゲーが本格的に終了いたしました。
私はこれからこことツイッター、そして相方のいるはてなダイアリーで活動していきます。
さて、私は一体何者か。ニコゲーで一体何をやっていたのか。
それを知るには、やはり何かを見てもらわねばならないでしょう。
てな訳で、4/23~4/26にかけてニコゲー日記に連載していた小説をまとめてUPします。
元ニコゲー住民で見逃した方、及び初めましてな方はぜひ見ていって下さい。
ではどうぞ!
『Mystic Lady』
女「…ここは…何処?」
気が付くとわたしは、見慣れぬ風景の中にいた。
男「驚いた…。まさか、生きてるなんて思わなかったぜ。しかも言葉が通じると来たか」
不意に横から声がした。見るとそこには一人の男の人がこちらを見ている。その青い目は驚きと好奇心と多少の安堵に満ち溢れていた。
女「ねぇ、ここは何処なの? どうしてわたしはここにいるの!?」
男「…質問は一つずつにしてくれ。あと、あまり見つめないでくれるかな? …照れるから」
そう言われ、わたしは視線を逸らした。
男「君の名前は確か…おっと、こういう時は自分から名乗るのが礼儀だよな。えっと…お初にお目にかかります、私は彩田琉之助(さいだ りゅうのすけ)、この船「カレッタ号」の船長をやってる者でございます……っと、こんな感じで良いかな?」
女「船? カレッタ号…?」
彩田琉之助(以下、琉)「…そう、船。ここは、海の上。理解、出来る?」
わたしは首を傾げた。
女「どうして、わたしはここにいるの?」
琉「ふむ、良いだろう。それを説明するには、ざっと数時間前まで遡らないとならないな」
~青年回想中~
琉「エリアβ、座標確認!」
操舵室の中で一人、青年が声を上げる。この船に、彼以外は誰も乗っていない。
琉「ダイバースイッチ・オン!」
彼がスイッチを入れると、たちまち船の形が変わり、水中に潜っていく。水深150m付近で、船のサーチライトが周囲には決まった形の岩を照らし出す。ここが今回の目的地の海底遺跡、通称“エリアβ”である。
琉「ふむ…、先客が多いな」
遺跡には、他にも多数の船が止まっていた。この遺跡の古代文字はつい最近になって解読に成功した。つくづく考古学者達には感謝せねばならない。…お陰で遺跡が同業者でごった返しているが。しかしこの遺跡は結構広く、まだ調査されてない所も多い。つまり、宝の山である。
琉「あの辺が空いているな」
彼は大きな他の船の隙間を通って遺跡の奥に辿り着いた。
琉「そんなデカい船じゃあ、こんな所までこれまい。じっくり漁らせて貰うぜ。アンカー・シュート!」
そう言って錨を射った。
琉「クラストアーム!」
船から二つ、蟹のハサミを思わせる腕が出てくる。これでガレキの山を取り除き、有用なモノならダイレクトに収納する。ガレキを取り除くと、徐々に建物の入口が明らかになってきた。しかし問題が一つ。
琉「こんな狭い入口じゃあ、アームが入らないな。仕方ない、アレを使うか」
そういうなりあるスイッチを押す。すると操舵席の背後にある重くて大きな扉が開く。彼は傍らに置いてあった棒状の道具を持って中に入った。その中でウェットスーツに着替えると、そこにある人の形を描いた壁に背中を合わせた。
琉「ラングアーマー・セットアップ!」
掛け声とともにスイッチを押すと、たちまち彼の体は次世代スキューバ装置<ラングアーマー>に覆われる。この装置を着けることにより、人は最深500mまで活動が出来、水中でなら非常に強い力を発揮したり素早く動く事が可能となる。大きく盛り上がった背中にはスクリューとタンクを二つ背負っており、中には深海作業用の特殊混合ガスが入っている。更に言えば、水中で会話することも可能である。
琉「アードラー!」
琉は手に持った棒状の道具のスイッチを押すことで、琉は天井に張り付いたエイを思わせる機械を起動した。たちまちアードラーは下に開かれた潜水用の出口に降り立つ。琉はアードラーに乗ると棒状の道具を腰のウェイトベルトに差し、そのまま海に潜っていった。
船でも侵入できない箇所には、自分で行くしかない。この時に活躍するのがこの二つなのだ。
琉「制限時間は2時間。早めに終わらせるぞ。パルトネール・フラッシュ」
琉は遺跡の入口に入って行った。遺跡の中には、船のライトは届かない。そこで彼は先程の棒状の道具、“パルトネール”を取り出して先端の明かりを点けた。遺跡の中には蛇を象ったレリーフが多く見受けられる。一体何の施設だったのだろうか。一本道の廊下を過ぎると、ちょっとした部屋に出た。他に入口は見つからずどうやらここで行き止まりらしい。
琉(ちょうど良いや。じっくり漁ってやろうじゃないか)
崩れたガレキを取り除き、モノを漁る。漁り始めて30分後。
琉(外れか? ここまで何もないっていうのは中々ないぞ。もうそろそろ引き返そうかな)
そう思っている時だった。ガレキの下から形の整った“何か”が、出てきたのである。彼は夢中になって周りのガレキをどけ、素早く砂を払った。そこには何とくっきりと古代文字が描かれていたのである!
琉「よし、こいつ取りだしたら今日は帰るぞ!」
邪魔なガレキを全て取り除くと、彼はその何かを取り出した。見たところは巨大な四角い物体である。しかしよく見ると上の方がぐらぐらしてる。どうやらこれは巨大な箱で、上の物体はその蓋らしい。琉は頭の装置を起動し、調べ始めた。
琉(ふむ……、タテ190cmでヨコ80cmか。それで古代文字がびっしりと……。何を入れるんだ? まさか棺桶か?)
棺桶を開けるのは少々気が引ける。しかし中には大体において副葬品が入ってる上に、中の死体が残っていれば生物学者が高値を出して買ってくれる。テクノロジーに直接応用は出来ないものの、当時の文化を知るヒントとなる貴重品でもあるのだ。
琉(ここまで丁寧に埋葬してあるなら王族か何かだろう。こいつは大当たりだ! ……へへっ、がっぽりがっぽり)
取らぬ狸の皮算用ならぬ、開けぬ棺の副葬品算用。琉は棺桶を抱えると、そのままスタコラサッサと遺跡を出た。目的物を手に入れたならサッサと引き返す。この業界の常識である。何故かというと、琉の持つパルトネールから音が鳴り始めたのである。
琉「何、ハルム!? もう嗅ぎつけてきやがったのか?」
ハルム。それはこの世界の生態系を大半を支配する異形の怪物である。その中には人を襲って食らうものも複数存在するのだ。
琉「しかも数が異様に多いときたな。……やってやるか!」
実際に遺跡の外には、人と魚を足したような姿をした異形の存在が何十匹も待ち構えており、あからさまに獲物を見る目で琉を見ていた。今にも飛び掛からんばかりの形相である。この琉の目の前にいるハルム“デボノイド”は海底のちょっと複雑な地形になら群れをなして潜んでおり、獲物の匂いを嗅ぎつけるといつの間にか現れるのだ。そしてパルトネールには、そのハルムを探知する能力がある。
琉「アードラー!」
このまま出たら餌になる。琉は遺跡から出ず、パルトネールを取り出すと外に止めてあったイーグルレイを起動した。
琉「アードラー・フィンスラッシュ!」
アードラーのひれから刃が出る。こちらに飛び掛かって来るデボノイド。しかしアードラーのひれにあたった瞬間、デボノイドは真っ二つになり、大量の血を残して消滅した。琉はアードラーを遠隔操作し、入口付近の群れを片っぱしから切り裂いた。たちまち辺りが血に染まってゆく。
琉(よし、今だ!)
琉は棺を外に出すと、そのままアードラーに飛び乗った。残ったハルムがまだ襲いかかってくる。
琉「パルトネール・サーベル!」
琉はパルトネールを取り出すと、そのままサーベル状の刃を展開させた。
琉「邪魔だ、どけッ、ぶるぁああああああァッ!!」
そう叫びつつ、琉は襲い来るデボノイドを次から次へと斬り捨てる。まっすぐにカレッタ号に向かってゆく。ある程度近付いた所で琉は扉に飛びつき、周りをアードラーで守りつつこじ開ける。ハルムの入らぬうちに入り込むと、すぐさまアードラーも撤収させた。ラングアーマーを解除すると、彼は再び操舵室に走る。
琉「クラストアーム!」
クラストアームを起動した琉は入口に置いた棺をつまみ上げ、そのままお持ち帰りした。周囲のデボノイドにげんこつを食らわせながら。
琉「よっしゃ、回収成功!」
こうしてまんまとお宝を手に入れた琉は海面に浮上した。そして、早速蓋を開けようとしたのだが……。
琉「ぐっ! ……何だこれは、ぐらついているにも関わらず蓋が開かないぞ?」
棺には不可解な力が備わっており、少しだけ蓋を浮かす事は出来るものの開ける事がままならないのだ。しかもこの棺、さっきまで普通の石の箱だったのに、回収してみたら掘られた字が赤く染まっている。匂いからしてもさっき斬り倒したハルムの血だ。それが掘られた字に入り込んで結晶と化しているのだ。
琉「こんなところに技術を使うとはな。思いもよらぬ宝を見つけたもんだぜ。しかし蓋の血は一体どういうことなんだ? おかげで読みやすくなったのだが」
琉は解読ソフトを入れたPCを開き、棺とにらめっこを始めた。専用の機械で蓋に書かれた文字をスキャンすると、PCの画面にその文字と訳文が映しだされる。
琉「何々、中の人は……ロッサ・ヴァリアブールっていうのか」
ソフト『私の愛すべき存在、ここに眠る』
琉「おお! やっぱり棺桶だったか!! これならしばらく食っていくのに困らないな」
琉は一人ガッツポーズをとった。なにせこの棺桶なら、蓋の技術と副葬品と中の人で荒稼ぎ出来るからである。しかしこの次に書いてあった内容はとても琉自身の、いやこれを読む我々の常識でもとても不可解なものであった。
ソフト『力ある者がこの棺に挑み、彼女を解き放つその時まで』
琉「……あん? 何これ、荒らされることが前提か? いくら生前が女性で、仮に超が付くほどの美人だったとしても、死んじまったんじゃ意味ないだろ常識的に考えて。何処かの童話の変態王子でもない限り誰も喜ばないぜ。最も、俺みたいに金目当てで漁る奴は別だがな。……おっと、まだ続きがあるな。どれどれ……」
ソフト『この棺を外まで運び出せ。運び出したら外で棺を狙うハルムを殺し、その血で棺の字を満たせ』
琉「アキサミヨー(なんてこったい)!? 今日のハルム大発生の理由はこいつか! 全く、あぶねぇ宝を掘り当てたモンだな……。字の内容と言い、恐ろしいってレベルじゃねーぞ!! パルトネールやラングアーマーのない時代だったらどうなってたことか」
危険な宝を掘り当てた事に今さら気が付いた琉。しかし、お持ち帰りしたからにはちゃんと面倒を見なければならない。そもそもここまでのリスクがあるならそれ相応のメリットがあるに違いない。そう勝手に解釈して、金に目のくらんだ琉はさらに解読を進めた。
ソフト『血を捧げし後は一杯の清水を与えよ』
琉は奥から水を持ってきた。この水、彼の故郷に沸く水である。普段は海水を真水に変えて使うのだが、たまに故郷に帰るとこの水を瓶に汲んでくるのだ。しかしどうにも使うのがもったいないので、結局清水の瓶がたまる一方なのだが。
琉「どうだ、うちの水は。他の船じゃ飲めないぜ~!」
なんだかんだで情が湧いてしまったらしい。ほぼ確実に金が入ると分かった今、琉は棺の解明を半ば楽しんでやっていた。……ついさっきまでは。
清水をかけると棺からギシっと音がした。。
ソフト『蓋を開け、そこに一輪の薔薇を与えよ』
さぁ、遂に対面である。琉は蓋を持つとそのままこじ開けた!
琉「!? な、何じゃこりゃぁーーーーー!!」
そこに入っていたのは大量の、ドロッとした謎の赤い液体であった。見ようによっては血だまりにも見える。琉は薔薇(何故か所持していた)を片手に絶叫した。副葬品なんぞ入っておらず、そこに人の面影などほとんど見えない。一体ここに入っていた女性……ロッサという人の身に何が起きたのだろうか?
琉「これ以上、ビビらせないでくれよ……」
琉はそう言うと、ゲルの中に薔薇を沈めた。ゲルの中で薔薇の花弁はほぐれるかのように散っていき、ゲルの中に消えていった。
琉「薔薇を……食った!?」
その直後の事である。ゲルが突如沸騰したかのように動き出した。まるで眠りを妨げられた大型ハルムが怒り狂うかのように。いよいよ恐ろしくなった琉は近くにあった柱の陰に隠れ、わなわなと震えながらその様子を見ていた。
琉「こ、こんなハルムなんざ聞いたも見たこともことねぇよ……。罠か? 罠なのか!? お願いだ、寝るのを邪魔したことは謝るから、大人しくなってくれ……ヒィッ!?」
そんな琉の必死の叫びも届かず、液体の動きはますます活発になっていく。ゲルは体を持ち上げ、徐々に人の形を成してゆく。
やがて動かなくなると、今度は徐々に色が付いていく。琉はパルトネールを後ろに隠し、スイッチに指を当てて様子を見ていた。液体は真っ赤で半透明な人の形から、白い肌で長いブルネットの髪を持つ非常に端正な顔をした女性へと姿を変えた。どこから湧いたのか、体には真っ赤なドレスのようなモノを羽織っている。
琉「ほえー!? これが本来の姿か? ……ふつくしい……」
琉はため息をつきながらそう呟き、恐る恐る近付いた。近付いて見てみると、むっちりとした非常に官能的な体つきなのが伺える。彼女は目を閉じたままだった。こちらにまだ気づいていないらしい。
琉「何はともあれ戻ったようだ。しかし、生きてるんだろうか? あの文によれば“目覚める”とか書いてあったよな。…それにしても凄い体つきだ。あれだけの年月でよくやせ細らなかったよな。…まだ目を覚ましてはいないのか。……そうだ、生きてるかどうかを確認するんだ。心臓が動いているかを確認するんだ。何も嫌らしい事なんかないぞ、俺は…」
琉は自分で自分に何かを言い聞かせながらそっと彼女の胸に手を伸ばした。脈を見るなら他にも方法はあるというのに、男と言うのは全くもって悲しい生き物である。だが琉の手が触る寸前、彼女は突然にその真っ赤な目を開いたのであった。
~回想終了~
彼はそれまでロッサに何があったのか話し終えた。もちろん、ごく一部を除いて。
琉「それで、君の名前は……」
女「ロッサ。ロッサ・ヴァリアブール」
そうだ、わたしはロッサだ。彼女は確信した。だが、
ロッサ「わたしはこの中で……? ……!?」
彼女は頭を抱えた。何かが、何かがない。頭の中に、何か大切なモノがない。
琉「どうかしたのかい? ……んな!?」
ロッサは琉の両腕を掴んで詰め寄った。
ロッサ「教えて、わたしはどうしてこの中で眠っていたの? わたしに一体何が起きたの? わたしは一体これからどうすれば良いの!?」
琉「そう聞かれましても、当方は一切感知しておりません、すみません、ごめんなさい、許して下さい、おねがいですからゆさぶらないで下さい、その手を離して下さい、痛いです痛いです、肩が痛いです……」
ロッサ「ご、ごめんなさい……。うぅ、どうしよう。本当に、本当に何も思い出せないよぉ……」
これからどうすればいいのか分からず、自分の事が名前以外全く分からないという不安。彼女の頬をふと涙が流れた。するとそれを見た彼が言いだした。
琉「あのぅ……。さっきの話聞いてたら分かると思うんだけど、俺って遺跡の探検が仕事なんだよね。多分君が暮らしていた時のモノは皆海の底だと思うんだよね。つまり何が言いたいかっていうと……」
彼は一端間を置いた。そして、
琉「一緒に、来ないか?」
ロッサ「え、良いの……?」
琉「ああ。それに何より、他に行く場所はないんだろう?」
こうして、ロッサと琉の海底遺跡を巡る旅が始まったのである。
~次回予告~
琉「こいつは“ふとん”だ。俺個人の考えでは、人類の生み出した至高の宝……と言ったところか」
ロッサ「すごーい! 琉とわたしのそっくりな人がこっちみてるー!」
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私はこれからこことツイッター、そして相方のいるはてなダイアリーで活動していきます。
さて、私は一体何者か。ニコゲーで一体何をやっていたのか。
それを知るには、やはり何かを見てもらわねばならないでしょう。
てな訳で、4/23~4/26にかけてニコゲー日記に連載していた小説をまとめてUPします。
元ニコゲー住民で見逃した方、及び初めましてな方はぜひ見ていって下さい。
ではどうぞ!
『Mystic Lady』
女「…ここは…何処?」
気が付くとわたしは、見慣れぬ風景の中にいた。
男「驚いた…。まさか、生きてるなんて思わなかったぜ。しかも言葉が通じると来たか」
不意に横から声がした。見るとそこには一人の男の人がこちらを見ている。その青い目は驚きと好奇心と多少の安堵に満ち溢れていた。
女「ねぇ、ここは何処なの? どうしてわたしはここにいるの!?」
男「…質問は一つずつにしてくれ。あと、あまり見つめないでくれるかな? …照れるから」
そう言われ、わたしは視線を逸らした。
男「君の名前は確か…おっと、こういう時は自分から名乗るのが礼儀だよな。えっと…お初にお目にかかります、私は彩田琉之助(さいだ りゅうのすけ)、この船「カレッタ号」の船長をやってる者でございます……っと、こんな感じで良いかな?」
女「船? カレッタ号…?」
彩田琉之助(以下、琉)「…そう、船。ここは、海の上。理解、出来る?」
わたしは首を傾げた。
女「どうして、わたしはここにいるの?」
琉「ふむ、良いだろう。それを説明するには、ざっと数時間前まで遡らないとならないな」
~青年回想中~
琉「エリアβ、座標確認!」
操舵室の中で一人、青年が声を上げる。この船に、彼以外は誰も乗っていない。
琉「ダイバースイッチ・オン!」
彼がスイッチを入れると、たちまち船の形が変わり、水中に潜っていく。水深150m付近で、船のサーチライトが周囲には決まった形の岩を照らし出す。ここが今回の目的地の海底遺跡、通称“エリアβ”である。
琉「ふむ…、先客が多いな」
遺跡には、他にも多数の船が止まっていた。この遺跡の古代文字はつい最近になって解読に成功した。つくづく考古学者達には感謝せねばならない。…お陰で遺跡が同業者でごった返しているが。しかしこの遺跡は結構広く、まだ調査されてない所も多い。つまり、宝の山である。
琉「あの辺が空いているな」
彼は大きな他の船の隙間を通って遺跡の奥に辿り着いた。
琉「そんなデカい船じゃあ、こんな所までこれまい。じっくり漁らせて貰うぜ。アンカー・シュート!」
そう言って錨を射った。
琉「クラストアーム!」
船から二つ、蟹のハサミを思わせる腕が出てくる。これでガレキの山を取り除き、有用なモノならダイレクトに収納する。ガレキを取り除くと、徐々に建物の入口が明らかになってきた。しかし問題が一つ。
琉「こんな狭い入口じゃあ、アームが入らないな。仕方ない、アレを使うか」
そういうなりあるスイッチを押す。すると操舵席の背後にある重くて大きな扉が開く。彼は傍らに置いてあった棒状の道具を持って中に入った。その中でウェットスーツに着替えると、そこにある人の形を描いた壁に背中を合わせた。
琉「ラングアーマー・セットアップ!」
掛け声とともにスイッチを押すと、たちまち彼の体は次世代スキューバ装置<ラングアーマー>に覆われる。この装置を着けることにより、人は最深500mまで活動が出来、水中でなら非常に強い力を発揮したり素早く動く事が可能となる。大きく盛り上がった背中にはスクリューとタンクを二つ背負っており、中には深海作業用の特殊混合ガスが入っている。更に言えば、水中で会話することも可能である。
琉「アードラー!」
琉は手に持った棒状の道具のスイッチを押すことで、琉は天井に張り付いたエイを思わせる機械を起動した。たちまちアードラーは下に開かれた潜水用の出口に降り立つ。琉はアードラーに乗ると棒状の道具を腰のウェイトベルトに差し、そのまま海に潜っていった。
船でも侵入できない箇所には、自分で行くしかない。この時に活躍するのがこの二つなのだ。
琉「制限時間は2時間。早めに終わらせるぞ。パルトネール・フラッシュ」
琉は遺跡の入口に入って行った。遺跡の中には、船のライトは届かない。そこで彼は先程の棒状の道具、“パルトネール”を取り出して先端の明かりを点けた。遺跡の中には蛇を象ったレリーフが多く見受けられる。一体何の施設だったのだろうか。一本道の廊下を過ぎると、ちょっとした部屋に出た。他に入口は見つからずどうやらここで行き止まりらしい。
琉(ちょうど良いや。じっくり漁ってやろうじゃないか)
崩れたガレキを取り除き、モノを漁る。漁り始めて30分後。
琉(外れか? ここまで何もないっていうのは中々ないぞ。もうそろそろ引き返そうかな)
そう思っている時だった。ガレキの下から形の整った“何か”が、出てきたのである。彼は夢中になって周りのガレキをどけ、素早く砂を払った。そこには何とくっきりと古代文字が描かれていたのである!
琉「よし、こいつ取りだしたら今日は帰るぞ!」
邪魔なガレキを全て取り除くと、彼はその何かを取り出した。見たところは巨大な四角い物体である。しかしよく見ると上の方がぐらぐらしてる。どうやらこれは巨大な箱で、上の物体はその蓋らしい。琉は頭の装置を起動し、調べ始めた。
琉(ふむ……、タテ190cmでヨコ80cmか。それで古代文字がびっしりと……。何を入れるんだ? まさか棺桶か?)
棺桶を開けるのは少々気が引ける。しかし中には大体において副葬品が入ってる上に、中の死体が残っていれば生物学者が高値を出して買ってくれる。テクノロジーに直接応用は出来ないものの、当時の文化を知るヒントとなる貴重品でもあるのだ。
琉(ここまで丁寧に埋葬してあるなら王族か何かだろう。こいつは大当たりだ! ……へへっ、がっぽりがっぽり)
取らぬ狸の皮算用ならぬ、開けぬ棺の副葬品算用。琉は棺桶を抱えると、そのままスタコラサッサと遺跡を出た。目的物を手に入れたならサッサと引き返す。この業界の常識である。何故かというと、琉の持つパルトネールから音が鳴り始めたのである。
琉「何、ハルム!? もう嗅ぎつけてきやがったのか?」
ハルム。それはこの世界の生態系を大半を支配する異形の怪物である。その中には人を襲って食らうものも複数存在するのだ。
琉「しかも数が異様に多いときたな。……やってやるか!」
実際に遺跡の外には、人と魚を足したような姿をした異形の存在が何十匹も待ち構えており、あからさまに獲物を見る目で琉を見ていた。今にも飛び掛からんばかりの形相である。この琉の目の前にいるハルム“デボノイド”は海底のちょっと複雑な地形になら群れをなして潜んでおり、獲物の匂いを嗅ぎつけるといつの間にか現れるのだ。そしてパルトネールには、そのハルムを探知する能力がある。
琉「アードラー!」
このまま出たら餌になる。琉は遺跡から出ず、パルトネールを取り出すと外に止めてあったイーグルレイを起動した。
琉「アードラー・フィンスラッシュ!」
アードラーのひれから刃が出る。こちらに飛び掛かって来るデボノイド。しかしアードラーのひれにあたった瞬間、デボノイドは真っ二つになり、大量の血を残して消滅した。琉はアードラーを遠隔操作し、入口付近の群れを片っぱしから切り裂いた。たちまち辺りが血に染まってゆく。
琉(よし、今だ!)
琉は棺を外に出すと、そのままアードラーに飛び乗った。残ったハルムがまだ襲いかかってくる。
琉「パルトネール・サーベル!」
琉はパルトネールを取り出すと、そのままサーベル状の刃を展開させた。
琉「邪魔だ、どけッ、ぶるぁああああああァッ!!」
そう叫びつつ、琉は襲い来るデボノイドを次から次へと斬り捨てる。まっすぐにカレッタ号に向かってゆく。ある程度近付いた所で琉は扉に飛びつき、周りをアードラーで守りつつこじ開ける。ハルムの入らぬうちに入り込むと、すぐさまアードラーも撤収させた。ラングアーマーを解除すると、彼は再び操舵室に走る。
琉「クラストアーム!」
クラストアームを起動した琉は入口に置いた棺をつまみ上げ、そのままお持ち帰りした。周囲のデボノイドにげんこつを食らわせながら。
琉「よっしゃ、回収成功!」
こうしてまんまとお宝を手に入れた琉は海面に浮上した。そして、早速蓋を開けようとしたのだが……。
琉「ぐっ! ……何だこれは、ぐらついているにも関わらず蓋が開かないぞ?」
棺には不可解な力が備わっており、少しだけ蓋を浮かす事は出来るものの開ける事がままならないのだ。しかもこの棺、さっきまで普通の石の箱だったのに、回収してみたら掘られた字が赤く染まっている。匂いからしてもさっき斬り倒したハルムの血だ。それが掘られた字に入り込んで結晶と化しているのだ。
琉「こんなところに技術を使うとはな。思いもよらぬ宝を見つけたもんだぜ。しかし蓋の血は一体どういうことなんだ? おかげで読みやすくなったのだが」
琉は解読ソフトを入れたPCを開き、棺とにらめっこを始めた。専用の機械で蓋に書かれた文字をスキャンすると、PCの画面にその文字と訳文が映しだされる。
琉「何々、中の人は……ロッサ・ヴァリアブールっていうのか」
ソフト『私の愛すべき存在、ここに眠る』
琉「おお! やっぱり棺桶だったか!! これならしばらく食っていくのに困らないな」
琉は一人ガッツポーズをとった。なにせこの棺桶なら、蓋の技術と副葬品と中の人で荒稼ぎ出来るからである。しかしこの次に書いてあった内容はとても琉自身の、いやこれを読む我々の常識でもとても不可解なものであった。
ソフト『力ある者がこの棺に挑み、彼女を解き放つその時まで』
琉「……あん? 何これ、荒らされることが前提か? いくら生前が女性で、仮に超が付くほどの美人だったとしても、死んじまったんじゃ意味ないだろ常識的に考えて。何処かの童話の変態王子でもない限り誰も喜ばないぜ。最も、俺みたいに金目当てで漁る奴は別だがな。……おっと、まだ続きがあるな。どれどれ……」
ソフト『この棺を外まで運び出せ。運び出したら外で棺を狙うハルムを殺し、その血で棺の字を満たせ』
琉「アキサミヨー(なんてこったい)!? 今日のハルム大発生の理由はこいつか! 全く、あぶねぇ宝を掘り当てたモンだな……。字の内容と言い、恐ろしいってレベルじゃねーぞ!! パルトネールやラングアーマーのない時代だったらどうなってたことか」
危険な宝を掘り当てた事に今さら気が付いた琉。しかし、お持ち帰りしたからにはちゃんと面倒を見なければならない。そもそもここまでのリスクがあるならそれ相応のメリットがあるに違いない。そう勝手に解釈して、金に目のくらんだ琉はさらに解読を進めた。
ソフト『血を捧げし後は一杯の清水を与えよ』
琉は奥から水を持ってきた。この水、彼の故郷に沸く水である。普段は海水を真水に変えて使うのだが、たまに故郷に帰るとこの水を瓶に汲んでくるのだ。しかしどうにも使うのがもったいないので、結局清水の瓶がたまる一方なのだが。
琉「どうだ、うちの水は。他の船じゃ飲めないぜ~!」
なんだかんだで情が湧いてしまったらしい。ほぼ確実に金が入ると分かった今、琉は棺の解明を半ば楽しんでやっていた。……ついさっきまでは。
清水をかけると棺からギシっと音がした。。
ソフト『蓋を開け、そこに一輪の薔薇を与えよ』
さぁ、遂に対面である。琉は蓋を持つとそのままこじ開けた!
琉「!? な、何じゃこりゃぁーーーーー!!」
そこに入っていたのは大量の、ドロッとした謎の赤い液体であった。見ようによっては血だまりにも見える。琉は薔薇(何故か所持していた)を片手に絶叫した。副葬品なんぞ入っておらず、そこに人の面影などほとんど見えない。一体ここに入っていた女性……ロッサという人の身に何が起きたのだろうか?
琉「これ以上、ビビらせないでくれよ……」
琉はそう言うと、ゲルの中に薔薇を沈めた。ゲルの中で薔薇の花弁はほぐれるかのように散っていき、ゲルの中に消えていった。
琉「薔薇を……食った!?」
その直後の事である。ゲルが突如沸騰したかのように動き出した。まるで眠りを妨げられた大型ハルムが怒り狂うかのように。いよいよ恐ろしくなった琉は近くにあった柱の陰に隠れ、わなわなと震えながらその様子を見ていた。
琉「こ、こんなハルムなんざ聞いたも見たこともことねぇよ……。罠か? 罠なのか!? お願いだ、寝るのを邪魔したことは謝るから、大人しくなってくれ……ヒィッ!?」
そんな琉の必死の叫びも届かず、液体の動きはますます活発になっていく。ゲルは体を持ち上げ、徐々に人の形を成してゆく。
やがて動かなくなると、今度は徐々に色が付いていく。琉はパルトネールを後ろに隠し、スイッチに指を当てて様子を見ていた。液体は真っ赤で半透明な人の形から、白い肌で長いブルネットの髪を持つ非常に端正な顔をした女性へと姿を変えた。どこから湧いたのか、体には真っ赤なドレスのようなモノを羽織っている。
琉「ほえー!? これが本来の姿か? ……ふつくしい……」
琉はため息をつきながらそう呟き、恐る恐る近付いた。近付いて見てみると、むっちりとした非常に官能的な体つきなのが伺える。彼女は目を閉じたままだった。こちらにまだ気づいていないらしい。
琉「何はともあれ戻ったようだ。しかし、生きてるんだろうか? あの文によれば“目覚める”とか書いてあったよな。…それにしても凄い体つきだ。あれだけの年月でよくやせ細らなかったよな。…まだ目を覚ましてはいないのか。……そうだ、生きてるかどうかを確認するんだ。心臓が動いているかを確認するんだ。何も嫌らしい事なんかないぞ、俺は…」
琉は自分で自分に何かを言い聞かせながらそっと彼女の胸に手を伸ばした。脈を見るなら他にも方法はあるというのに、男と言うのは全くもって悲しい生き物である。だが琉の手が触る寸前、彼女は突然にその真っ赤な目を開いたのであった。
~回想終了~
彼はそれまでロッサに何があったのか話し終えた。もちろん、ごく一部を除いて。
琉「それで、君の名前は……」
女「ロッサ。ロッサ・ヴァリアブール」
そうだ、わたしはロッサだ。彼女は確信した。だが、
ロッサ「わたしはこの中で……? ……!?」
彼女は頭を抱えた。何かが、何かがない。頭の中に、何か大切なモノがない。
琉「どうかしたのかい? ……んな!?」
ロッサは琉の両腕を掴んで詰め寄った。
ロッサ「教えて、わたしはどうしてこの中で眠っていたの? わたしに一体何が起きたの? わたしは一体これからどうすれば良いの!?」
琉「そう聞かれましても、当方は一切感知しておりません、すみません、ごめんなさい、許して下さい、おねがいですからゆさぶらないで下さい、その手を離して下さい、痛いです痛いです、肩が痛いです……」
ロッサ「ご、ごめんなさい……。うぅ、どうしよう。本当に、本当に何も思い出せないよぉ……」
これからどうすればいいのか分からず、自分の事が名前以外全く分からないという不安。彼女の頬をふと涙が流れた。するとそれを見た彼が言いだした。
琉「あのぅ……。さっきの話聞いてたら分かると思うんだけど、俺って遺跡の探検が仕事なんだよね。多分君が暮らしていた時のモノは皆海の底だと思うんだよね。つまり何が言いたいかっていうと……」
彼は一端間を置いた。そして、
琉「一緒に、来ないか?」
ロッサ「え、良いの……?」
琉「ああ。それに何より、他に行く場所はないんだろう?」
こうして、ロッサと琉の海底遺跡を巡る旅が始まったのである。
~次回予告~
琉「こいつは“ふとん”だ。俺個人の考えでは、人類の生み出した至高の宝……と言ったところか」
ロッサ「すごーい! 琉とわたしのそっくりな人がこっちみてるー!」
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@im2yk(投稿日:2011/04/27 21:35,
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これって、ノベルゲームに出来ない?誰か作ってくれる人いない?